保険業法改正(令和7年改正保険業法)は、2026年6月1日に施行されました。代理店の関心は「何が変わるのか」から「自社の対応は足りているのか」へ移っています。
論点は2つです。「自社は規制対象なのか」という該当性の判断と、「対象外の代理店は何もしなくてよいのか」という問い。義務が直接かかるのは約70〜100社の見込みですが、対象外の代理店にも監督指針を通じて影響が及びます。記事末尾ではセルフ点検シートを無料で配布しています。
この記事の内容をまとめると
- 改正保険業法は2026年6月1日施行。該当基準を定めた内閣府令の公布は2026年3月30日
- 対象の「特定大規模乗合保険募集人」は手数料等20億円以上(生損兼営は10億円+合算20億円)。該当は約70〜100社
- 対象外の代理店にも影響は及ぶ。便宜供与の禁止と比較推奨の確保に規模要件はない
- 統括責任者は「保険募集に現に従事していないこと」が要件。法令等遵守責任者にこの要件はない——最も取り違えやすい差
目次
1. 保険業法改正2026とは|施行日と改正の全体像
保険業法改正2026とは、2025年成立の「保険業法の一部を改正する法律」(令和7年法律第54号)が2026年6月1日に施行され、保険会社・代理店の双方に新たな体制整備義務等を課した改正です。2023年に表面化した保険金の不正請求事案と保険料調整行為を契機に、顧客本位の保険募集を制度として担保することを狙っています。
この改正は資料によって「2025年の改正」とも「2026年の改正」とも書かれます。社内で日付を混ぜると対応期限を読み違えます。次の4つは別物です。
| 時点 | できごと | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 2025年5月30日 | 改正法が国会で成立 | 方向性が確定。基準は未確定 |
| 2025年6月6日 | 公布(令和7年法律第54号) | 条文が確定。金額基準は府令待ち |
| 2026年3月30日 | 内閣府令の公布/監督指針の改正 | 該当基準・責任者要件が確定 |
| 2026年6月1日 | 改正法の施行 | 義務が現実に発生 |
手数料の金額基準や責任者の要件といった具体的な線引きは内閣府令と監督指針に委ねられています。「法律は2025年に読んだ」という代理店ほど、この部分を取りこぼしています。
2. 改正4本柱と代理店への影響
代理店の実務に関係する範囲では、改正は4本柱に整理できます。
| 柱 | 改正内容 | 影響が及ぶ代理店 |
|---|---|---|
| ①特定大規模乗合保険募集人への体制整備義務 | 責任者の設置、苦情処理・内部通報・内部監査体制の整備など | 手数料等20億円以上(約70〜100社) |
| ②過度な便宜供与の禁止 | 監督指針レベルから法律に明記 | すべての代理店(受け手として) |
| ③比較推奨販売の確保 | 最善の利益を勘案した比較・推奨と推奨理由の記録 | すべての乗合代理店 |
| ④保険仲立人の活用促進 | 保証金の引下げ、不祥事件の届出義務の新設 | 仲立人と競合/連携する代理店 |
このうち②③は規模を問わず全代理店に関係します(詳細は「便宜供与とは」、「比較推奨販売とは」、「保険仲立人(BOR)とは」で解説)。本記事は①の該当性判断と、②③が全代理店にかかる理由に絞ります。
3. 自社は「特定大規模乗合保険募集人」に該当するか|判定フロー
「特定大規模乗合保険募集人」は2つの資格の総称です。生保側の特定大規模乗合生命保険募集人(保険業法施行規則第215条の3)と損保側の特定大規模乗合損害保険代理店(同第227条の16)は別々に判定し、生損兼営なら片方だけ該当することも両方該当することもあります。判定に使うのは判定事業年度(=直前の事業年度)に二以上の所属保険会社等から保険募集に関して受領した手数料等の額で、金額基準は内閣府令で20億円と定められました。
STEP 1:分子になる金額を集計する
取り違えやすいのが「二以上の所属保険会社等から」という条件です。1社専属で得た手数料は算入しません。
| 集計対象(判定事業年度=直前の事業年度) | 記号 | 自社の金額 |
|---|---|---|
| 二以上の所属生命保険会社等から受領した手数料等 | A | ____ 億円 |
| 二以上の所属損害保険会社等から受領した手数料等 | B | ____ 億円 |
| 合計(A+B) | C | ____ 億円 |
STEP 2:生保側・損保側を「別々に」判定する
| 判定する資格 | 自社が単営の場合 | 自社が生損を兼営する場合 |
|---|---|---|
| 特定大規模乗合 生命保険募集人 |
A が 20億円以上 | A が 10億円以上 かつ C が 20億円以上 |
| 特定大規模乗合 損害保険代理店 |
B が 20億円以上 | B が 10億円以上 かつ C が 20億円以上 |
たとえば生損兼営でA=12億円・B=9億円・C=21億円なら、生保側は該当・損保側は非該当(B<10億)となり、特定大規模乗合生命保険募集人としてのみ義務がかかります。
なお保険会社は代理店からの情報提供に依拠して該当性を判断します。「保険会社が教えてくれるだろう」という受け身の姿勢は成立しません。
4. 該当は約70〜100社。それでも対象外の代理店に影響が及ぶ理由
金融庁は国会審議で、該当する保険代理店は約70社から100社との見込みを示しています。ここで多くの代理店が「うちは関係ない」と結論を出しますが、それは半分だけ正しい判断です。対象外の代理店にも、次の2つの経路で影響が及びます。
経路①:監督指針が「準じた態勢整備」を求めている
内閣府令が「保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務」として定めたのは自動車の修理業務およびこれに付随する業務に限られます。しかし監督指針は、保険金を原資として対価を得る業務を行うすべての損害保険代理店において、規模・特性に応じて準じた態勢整備がなされることが望ましいとしています。修理・板金・リフォーム等を併営する代理店は、規模にかかわらずこの立場です。
まず「保険金を原資として対価を得ている業務」を棚卸ししてください。そこに自社が推奨した契約と関係する業務があり実施記録がない——これが最初に埋めるべき穴です。求められるのは対象業務の特定・監視・記録の保存(5年間)の3点です。
経路②:便宜供与と比較推奨は、規模を問わず全代理店にかかる
この2つに規模要件はありません。注目すべきは、法令等遵守責任者の職務として「便宜供与の状況」の把握と「便宜供与による比較推奨販売への影響の有無」の検証が明記されたことです。つまり両者は別の論点ではなく、「便宜を受けた相手の商品を推していないか」という一本の疑いとして検証される。対象外の代理店でも、受領記録と推奨理由の記録を突き合わせて説明できる状態が、最も現実的な備えです。
5. 2つの責任者の要件を取り違えない|法令等遵守責任者と統括責任者
該当代理店が設置する責任者は2種類あります。名前は似ていますが設置場所も要件も職務も異なります。
| 比較項目 | 法令等遵守責任者 | 統括責任者 |
|---|---|---|
| 設置場所 | 保険募集を行う営業所・事務所ごと | 本店または主たる事務所 |
| 保険募集への従事 | 従事していないことは求められない | 現に従事していないことが要件 |
| 地位の要件 | 的確に遂行するに足りる能力 | 能力に加え管理的または監督的地位 |
| 兼任の制限 | 他の営業所の法令等遵守責任者でないこと(支障がない場合を除く) | 法令等遵守責任者でないこと |
| 主な職務 | 担当拠点の募集実態(便宜供与を含む)の把握・検証、統括責任者への報告 | 法令等遵守責任者を指揮、全社の検証、経営陣への定期報告 |
| 欠けた場合 | いずれも、欠けた日から3月以内に新たに設置 | |
効いてくるのは統括責任者が営業部門から独立している必要がある点です。一方、法令等遵守責任者に同じ厳格さは求められておらず、拠点の実情に応じた対応が許容されます。取り違えて全拠点に専任者を置く計画を立てると、人員配置が過剰になります。
6. 施行後に残りやすい未了項目と、猶予期間の起算点
施行日を過ぎても全措置が即日必要なわけではなく、一部には6月間の猶予があります。
猶予が設けられている措置
- 法令等遵守責任者・統括責任者の設置——該当日から起算して6月以内
- 保険募集指針の策定・公表・実施
- 苦情処理体制の整備(ただし苦情記録の作成・保存義務は猶予の対象外。所定の7項目を記載した記録を作成の日から5年間保存)
- 内部通報体制の整備/内部監査体制の整備
猶予期間は余裕ではありません。人材確保、規程の整備、拠点への周知、記録様式の統一を通常業務と並行して6か月で終えるのは、相応に厳しい工程です。
施行後に残りやすい未了項目トップ5
1・4・5は該当・非該当を問わず全代理店に関係します。
| # | 残りやすい未了項目 | 対象 | 自社の状況 |
|---|---|---|---|
| 1 | 該当性判定の未実施(乗合分を切り出していない) | 全代理店 | 済/対応中/未 |
| 2 | 統括責任者の候補者不在(独立性3条件) | 該当社 | 済/対応中/未 |
| 3 | 苦情記録の作成・保存(猶予されない) | 該当社 | 済/対応中/未 |
| 4 | 便宜供与と推奨理由の記録が別管理(突合できない) | 全代理店 | 済/対応中/未 |
| 5 | 保険金を原資とする業務の記録がない(修理・板金等) | 全代理店 | 済/対応中/未 |
空欄が残った行が、そのまま次の一手になります。拠点ごとに同じ表を回すと運用差が見えます。
改正保険業法 施行後 対応状況セルフ点検シート
全4ページ|2026年6月1日施行版・そのまま社内で回せる点検様式(無料)
- 該当判定ワークシート——生保・損保の2系統判定+みなし規定の確認欄
- 責任者設置チェック——統括責任者の独立性3条件を候補者ごとに判定
- 猶予対象/対象外の一覧と期限管理——「猶予されない項目」を明示
- 便宜供与×比較推奨の突合記録——受領状況と推奨件数を並べる様式
- 保険金を原資とする業務の棚卸し表——非該当の代理店向け
- 未了項目の棚卸し表——担当者・期限・進捗の記入欄つき
本シートは保険代理店向けの「資料まとめページ」に掲載しています。ご登録いただくとページのURLをメールでお送りします。便宜供与対応キットや社内規程のひな形など、ほかの実務資料もあわせてご利用いただけます。
ご登録は無料・1回のみ。資料は追加され、同じURLからご覧いただけます。
便宜供与の社内規程の条文例・謝絶文例は、同じページの「便宜供与対応キット」に収録しています。
まとめ
2026年6月1日施行の保険業法改正で体制整備義務が直接かかるのは、手数料等20億円以上の約70〜100社です。まず乗合分の手数料を生保・損保に分けて集計し、みなし規定まで含めて該当性を確定させてください。該当する場合は統括責任者の候補者探しが最初のボトルネックになります。
該当しない代理店にも無関係ではありません。保険金を原資に対価を得る業務があれば準じた態勢整備が望ましいとされ、便宜供与と比較推奨は規模を問わず「便宜を受けた相手の商品を推していないか」という一本の論点として検証されます。受領記録と推奨理由の記録を突き合わせて説明できる状態が、最も効く備えです。
※本記事は2026年7月時点の公表情報に基づきます。個別の該当性判断・体制整備の要否は、所属保険会社または専門家にご確認ください。
出典
- 金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令等の公布及びパブリックコメント結果の公表について」(令和8年3月30日):https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20260330/20260330.html
- 金融庁「令和7年保険業法改正に係る政令の公布及びパブリックコメント結果の公表について」(施行日=令和8年6月1日):https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20251219/20251219.html
- 保険業法の一部を改正する法律(令和7年6月6日 法律第54号):https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000168048
- 保険業法施行規則(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/408M50000040005
本記事の各記述の根拠条文は次のとおりです(2026年7月20日 e-Gov掲載の条文で確認)。
・手数料等20億円/10億円の基準・みなし規定:第215条の3(特定大規模乗合生命保険募集人の要件)、第227条の16(特定大規模乗合損害保険代理店の要件)
・法令等遵守責任者・統括責任者の設置、6月以内の設置・3月以内の再設置、統括責任者の4要件:第215条の4第1項第1号・第2号、第227条の18
・苦情記録の作成および作成の日から5年間の保存:第215条の4第1項第3号ロ、第227条の19第2項
・保険募集指針・内部監査・内部通報等に係る6月間の猶予(苦情記録を除く):第215条の4第2項、第227条の19第4項、第227条の21第2項
・保険金を原資とする業務に係る対象業務の特定・監視・記録保存:第227条の20
・不祥事件の非届出所属保険会社等への通知:第215条の4第1項第7号、第227条の21第1項第4号
・「保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務」=自動車の修理業務及びこれに付随する業務:第53条の14の3 - 「準じた態勢整備が望ましい」とする記述は、保険会社向けの総合的な監督指針(2026年3月30日改正)の該当項に基づきます。
- 該当社数の見込みは、第217回国会衆議院財務金融委員会(2025年5月14日)および参議院財政金融委員会(2025年5月29日)における金融庁企画市場局長答弁に基づきます。
